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【コラム】4月 清明、春爛漫の桜に木花之佐久夜毘売

立川・根川緑道

 四月は入学式や入社式など、新生活がスタートする節目の月です。 また、暖かな陽気に誘われて、草花が咲き、動物や虫たちが顔を出し始める季節でもあります。二十四節気では5~19日頃を「清明(せいめい)」といい、身も心もすがすがしい時を迎える季節です。関東から西の地域では例年三月に開花する「桜」ですが、日々、西から東へと見頃を迎え、薄紅色の春の訪れが日本全国へと広がるのが四月です。一斉に咲きまた散っていく様子から、出会いと別れを連想させる桜の花ですが、その魅力を訪ねてみます。

木華開耶媛

「桜」とは一体どのように「さくら」と名付けられたのでしょう。その語源には諸説ありますが、2つの説に耳を傾けてみます。

1つ目の説は、日本最古の歴史である日本書紀や古事記に登場する神様「木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)」を由来とする説です。木花之佐久夜毘売が富士山の上空から桜の種を蒔いたという逸話があり、名前の一部にある「さくや」から「さくら」に変化したと言われています。

2つ目は、桜への信仰が語源となった説です。日本では、桜は「穀物の神が宿る樹木」と考えられてました。昔の日本語では「さ」は稲の精霊、「くら」は稲の精霊が降臨する場所を指す言葉。その2つを組み合わせて、「さくら」となったとする説もあります。

 木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)は、桜の如く華やかに咲いて、桜のように儚く散った絶世の美女。まさに美人薄命を絵に描いたような神様です。 天照大御神(アマテラスオオミカミ)の天孫、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に一目惚れされ、妻となったとあります。古事記や日本書紀では、父のオオヤマツミノカミが姉のイワナガヒメノミコトとともに妻にと送り出しましたが、瓊瓊杵尊は美しい木花之佐久夜毘売だけを妻としたため、二人の子孫の寿命は木の花のように儚くなったとされています。図は、堂本印象の「木華開耶媛 このはなさくやひめ」(京都府立堂本印象美術館蔵)で、女神の清楚で美しくも儚い姿が描かれています。

櫻よ富士山

 では、日本人が桜を好きな理由は、なぜでしょう? まず考えられるのは、桜は春の到来を象徴する花であるということです。寒さが厳しい「冬」が終わり、様々な物事が新たなスタートを迎える「春」は心躍る季節です。桜が満開になると、そんな「心がうきうきする季節」の訪れを実感できることが、日本人が桜を好きになる理由のひとつです。

もうひとつの理由は、「儚く美しい花」であることでしょう。何ヶ月も前から、桜が満開になる時期を心待ちにしていたにも関わらず、長くても2週間程度で桜は散ってしまいます。日本人は昔から「生命の儚さ」に美しさを感じており、満開の桜の美しさが短期間で散って終わる「儚い花」であることも、桜が好きなもうひとつの理由ではないでしょうか。

 そんな桜を体現した、美しくも儚き女神、木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)を想い、桜の下でピノ・ノワールを飲むのも一興ではないでしょうか。

花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに (小野小町 『古今集』)

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