【コラム】5月1日は、スズランの日。大切な人に幸せを。


目に青葉の五月。桜の季節から一気に色々なことが動き出し、時間ばかりが早く過ぎる季節です。そんな五月の花というと、カーネーションでしょうか?五月の第二日曜日、母の日のカーネーションが思い浮かびます。
でも五月を代表する花には、もうひとつ忘れてはならない花、スズランがあります。爽やかな香りと小さなベル形の花姿が特徴のスズランは、ヨーロッパで春の訪れを告げる花として愛されてきました。特にフランスでは、大切な人へ感謝の気持ちを込めてスズランを贈る「スズランの日(jour de muguet:ジュール ドゥ ミュゲ)」の風習があります。

パリの知人のフローラルデザイナーによると、「16世紀、ランス王シャルル九世の母后カトリーヌ・ド・メディチがフランス南東部ドーフィネを訪れ、その地の領主ジラール・ド・メゾンフォルトの城館に宿泊しました。このときジラールは城館の庭に咲くスズランを集め、大きな花束にしてカトリーヌに贈りました。危険が伴うパリへの帰途、花束に慰めを得たカトリーヌは、無事フォンテーヌブローに戻ると、幸運の花束をそのまま少年王シャルル九世に渡したそうです。シャルル九世はこの出来事に感激し、その場にいた貴婦人たちにスズランを分け与え、「幸運の印のスズラン」を女性に贈る風習が始まったと伝えられてます。」と教えてくれたことを思い出します。

スズランの神話や伝承として、聖母マリアが十字架の下で流した涙から咲いた花と言われ、森の悪竜を退治した聖人レオナルドが流した血から咲いた、など幾つもの伝承があります。ヨーロッパなどの北国で暮らす人々が、待ちわびた春の訪れとともに咲き始めるスズランを、幸福再来の象徴として見てきたの事につながるのでしょう。スズランの花言葉も、幸福が訪れる、純潔、純粋、意識しない美しさ、再び幸せが訪れる、希望、など明るい言葉がならびます。そして、スズランの姿から、「妖精の階段」「天国の階段」「ヤコブの階段」とも言われています。
5月1日、フランスの街中でスズランの花が売られるスズランの日。3つの条件を守れば、一般の市民でも自由にスズランの花を売ることが出来ます。切り花であること。根が付いていないこと。花屋とは一定の距離を保つこと。こうして、街中がスズランの花でいっぱいになり、その香りと美しさが人びとを魅了します。

スズランには、日本在来種とヨーロッパ原産のドイツスズランがあります。日本のお花屋さんで見かけるスズランの多くはドイツスズランで、日本原産のスズランより花が大きく、香りが強いのが特徴です。スズランのフランス語名の「ミュゲ(muguet)」の語源は「麝香(ジャコウ)」を表す古フランス語(musque, musgue)で、「薫り高い花」が原意です。
香り高いスズランは、バラ、ジャスミンと並び、三大フローラルノートと呼ばれ、いくつものスズランの香水が出ています。そんなな中でも、スズランをこよなく愛したクリスチャン・ディオールが、生涯最後にプロデュースした「ディオリッシモ」は名香と言われています。
また、スズランの香りは「聖なる香り」と言われ、好きな人にふりかけると自分に振り向いてくれるという言い伝えもあるそうです。
これほど美しく清楚なイメージのスズランが、毒性のある有毒植物なのが驚きです。「きれいな花には刺がある」薔薇と同じように、スズランにも毒があるのです。特に毒が多い根や花を食べたり飲んだりすると、吐き気や頭痛、めまい、低血圧、心筋麻痺などの重い症状が起こります。スズランの花束を作るときには注意が必要です。
そんな意外性のあるスズランですが、1本の茎に花が13輪咲いているスズランは、最も幸福を運んできてくれると言い伝えられています。5月1日にスズランの花束を贈ると、その人に幸福が訪れることを願って、スズランを贈るのも素敵ですね。
君影草と呼べるすずらん咲ける朝声なき花に君の声聞く 飯沼澄子 『君影草』