【コラム】六月、水の月、紫陽花の不思議


梅雨時の6月初旬から7月初旬にかけて、青色や紫色、薄紅色などの花を咲かせる紫陽花(アジサイ)。花色がよく変化するために、七変化・八仙花などの別名で呼ばれることもあります。そのことから、花言葉も移り気・無常・浮気など、マイナスイメージが多いアジサイ。実は色によって花言葉が変わります。青いアジサイは「辛抱強い愛情」、薄紅色のアジサイは「元気な女性」、白いアジサイは「寛容」などと、とてもポジティブな花言葉もあるので、優しい眼差しで見て欲しいものです。
アジサイは漢字で「紫陽花」と書きます。「紫陽花」と書いて「あじさい」と読むのは、中国語表記を和名に当てた日本語独自の当て字です。「蒲公英(たんぽぽ)」「向日葵(ひまわり)」なども同じです。

「紫陽花」という漢字は、白居易の「紫陽花詩」(白氏文集巻第ニ十)の漢字の読みを日本で「あじさい」と訳して広まったのが「紫陽花=あじさい」の漢字表記の始まりとされています。ただ、白居易が詠んだ紫色の花は、アジサイとは別の花(おそらくライラック)だったと言われています。
アジサイの花は、万葉集にも登場しており「味狭藍」「安治佐為」などの漢字が当てられて「あじさい」と詠んでいます。この「あじさい」という名前の由来にも諸説ありますが、「藍色の花が集まっている」という意味の「集真藍(あづさい)」がなまったものとする説が有力視されています。
紫陽花の原種は、日本に自生している「ガクアジサイ」です。昔から海岸沿いで自生することから「ハマアジサイ」とも呼ばれており、紫色の小さな蕾状の集合した周りに額縁の様に小花が数輪、と言えば思い浮かぶと思います。でもこの小花、花ではなく、装飾花と呼ばれる「がく」なのです。紫陽花の花びらは、このがくの中心にある、小さい玉なのです。小さな花びらが5枚ほどついた花が咲きます。
広く紫陽花としてイメージされているのは、このガクアジサイが変化した「ホンアジサイ」です。ホンアジサイは、江戸時代頃にガクアジサイの栽培種として生まれ、装飾花が手毬咲きに咲くのが特徴です。日本で最もポピュラーなアジサイで、切り花として流通しているアジサイのうち、国産のものは大半がこのホンアジサイの品種です。そしこの手毬咲きのホンアジサイを、ドイツ人医師シーボルトなどが欧州に持ち帰って品種改良が行われ、より大輪で色のバラエティに富んだ「西洋アジサイ」として日本に逆輸入されてくるのです。

左図の葛飾北斎が描いた「あじさいと燕」(東京国立博物館蔵)のアジサイも、ホンアジサイだと思われます。
最後に、土壌の酸性度によって花色が変わる紫陽花。紫陽花の花色は、アントシアニンという色素が発色させています。色の変化はアントシアニンと土の酸度と土のアルミニウム成分により変化します。 アルミニウムは酸性の土壌でよく溶け、アルカリ性の土壌では溶けない性質があるので、酸性の土壌で育つと「青いアジサイ」、アルカリ性の土壌で育つと「赤いアジサイ」、中間の土壌で育つと「紫色のアジサイ」となります。街中でよく見かけるアジサイは青や紫が圧倒的に多いのは、日本は火山大国であるため、酸性の土壌が圧倒的に多いからというのも納得です。
理科の実験のように、紫陽花の植わっている土壌の酸性度を変化させることで、思いのままの花色の紫陽花を咲かすことが出来るようです。ただアナベルなどの白い紫陽花は、花に色素がありません。そのため、土壌の酸性度で白色を変えることはできません。さすが白ですね。