【コラム】12月師走 クリスマスと天使とローズの話

一年の最後の月、十二月。その師走にクリスマスという行事があります。クリスマスは、イエス・キリストの降誕を祝うキリスト教の行事であることはご存知のとおりです。
「クリスマス」の核となる物語のイエス・キリストの降誕(誕生)の物語において、天使は非常に重要な役割を果たします。天使ガブリエルのマリアへの受胎告知、マリアの婚約者ヨセフへの天使の告知、
イエスの誕生を羊飼いへの告知、そして、夜空に天使の群れが現れイエス誕生を賛美する歌を歌い上げます。天使は神と人間を結びつけるメッセンジャーとして、クリスマスの奇跡の到来を告げ、祝福する存在です。そんな天使とクリスマスにまつわる心温まるお話を、もう二つ。
ドイツの絵本作家、エルゼ・ヴェンツ‐ヴィエトールによる『クリスマスの天使』(原題:『Die Weihnachtsengelein』)は、読まれたことありますか?クリスマスを心待ちにする子どもたちや、困っている人たちのもとへ天使たちが舞い降りてくる、心温まる物語です。
このお話は、10人の小さな天使たちが登場します。彼らはクリスマスの時期になると空から地上を見守り、困っている人や動物たちを見つけると、一人ずつそっと助けの手を差し伸べにいきます。

1番目の天使は、雪に埋もれた野原でお腹を空かせた動物たちを見つけ、食べ物をあげます。次の天使たちは、働き疲れて眠ってしまった女の子の代わりに、針仕事を終わらせてあげたり、迷子になった子どもを家まで送ってあげたりします。身体が弱ったおばあさんのために、クリスマスツリーを用意してあげたり、泣いている赤ちゃんを優しく抱っこしてあげたりもします。
このように、天使たちはそれぞれが異なる場所で、困っている人や動物たちのために、できることをして回ります。そして物語の最後に、10番目の天使が、小さなイエス様のためにモミの木のロウソクに灯をともし、みんなで「きよしこの夜」を歌う、というお話です。
この絵本は、ページをめくるごとに、歌っているかのように愛らしい天使たちの顔がひとつずつ現れるのです。単に物語を読むだけでなく、見る人にも温かな気持ちを届けてくれる、深いメッセージが込められた絵本なのです。書店や図書館で、立ち読みするだけでも、どうぞ。
もうひとつ、キリストの誕生にまつわるクリスマスローズのお話です。この物語は、イエス・キリストがベツレヘムの馬小屋で生まれたクリスマスの夜に起こった話です。天使が羊飼いたちのところに現れ、救い主の誕生を告げ、羊飼いたちは贈り物を持って馬小屋へ急ぎます。貧しい羊飼いの少女マデロンも、馬小屋へと向かいましたが、他の人々が豊かな贈り物を献上するのを見て悲しみました。 彼女にはキリストに捧げる贈り物が何もなかったのです。雪深い冬の野原で、マデロンが「何も差し上げられない」と泣き崩れていると、一人の天使が彼女のそばにやって来ます。天使が雪を払いのけ、 地面に触れると、そこから清らかに咲く白いクリスマスローズの花が咲き出しました。マデロンは喜び、その花を摘み取り、生まれたばかりのキリストと聖母マリアに捧げることができた、というお話です。

この物語から、クリスマスローズは、天使の助けによって生まれた、貧しい者も捧げることができた清らかな愛と献身の象徴として、クリスマスと結びついているのです。
クリスマスローズは、クリスマスの頃にバラのような白い花を咲かせる原種ヘレボルス・ニゲル(Helleborus niger) だけを指した呼称でしたが、日本では残念ながらクリスマスローズとして流通している園芸品種の多くは、早春に開花するものが中心なのです。これらはヘレボルス・オリエンタリスなどの交配種で、「春咲きクリスマスローズ」で雪の下からは咲いては来ないのです。 さて、中世の「騎士と恋人」にまつわるクリスマスローズの伝説は、またの機会に、良いお年を。
