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【コラム】十一月霜月 晩秋の野を彩る野菊と秋咲クロッカス

 十一月。木々の葉が色づき、やがて冷たい風が吹き抜ける晩秋。多くの花が姿を消していく頃に、ひっそりと、しかし力強く咲き誇る花があります。日本の野原を彩る「野菊」と、西欧の大地で静かに顔を出す「秋咲きクロッカス」です。
野菊は、特定の花を指す名前ではありません。シオン属(Aster属)などに属する野生のキク科の総称で、ノコンギク、リュウノウギク、ユウガギクなど、日本各地で多様な種が自生しています。多くの花が春から夏に命を燃やす中、野菊があえて十一月の晩秋を選ぶのには理由があります。それは、夏の強烈な日差しや他の競合する草花との生存競争を避け、昆虫が少なくなる季節に確実に受粉のチャンスを得るための進化の戦略です。寒さで他の草木が枯れゆく中、紫や白の慎ましい花弁を広げる姿には、日本の厳しくも美しい四季の移ろいに適応した植物の理(ことわり)が宿っています。

 野菊にまつわる民話は、その控えめな佇まいを映すように、どこか切なさを帯びています。 ある山里に、病気がちな母親を看病する心優しき娘がいました。娘は日暮れまで山仕事に精を出していましたが、ある日、道に迷って途方に暮れてしまいます。その時、足元に青紫色の小さな花が灯るように咲いているのを見つけました。「この花が家までの道しるべになってくれますように」娘が祈ると、花は夜道を照らすかのように次々と咲き続け、無事に母親のもとへ帰ることができました。翌日、その場所に行ってみると、そこにはあの慎ましい野菊が群れをなして咲いていたといいます。野菊は、寂しい秋の山野で道行く人々をそっと見守る「里の精」の化身であると、古くからの言い伝えは語り継いでいます。

 一方遠く、地中海沿岸に目を向けると、秋の訪れとともに地中から直接紫や黄色の美しい花を咲かせる「秋咲きクロッカス」が見られます。春に咲くクロッカスの仲間が多い中、秋咲きの種が選んだ生存戦略は独特です。彼らは夏の高温乾燥期を地下の球根(球茎)の状態でじっと耐え忍び、秋の涼しい雨を合図に、葉よりも先に花を地上へ突き出します。冬の寒さが本格化する前に花を咲かせ、受粉を終えてから春にかけて葉を茂らせて光合成を行い、栄養を蓄えるという、季節を逆手に取った巧みな生命の理を持っています。

 クロッカスには、ギリシャ神話に由来する有名な神話があります。それは、青年クロッカスとニンフ・スミラックスの悲恋の物語です。結ばれることの叶わなかった二人の愛を哀れんだ花の女神フローラが、二人をクロッカスの花へと変えたという伝説です。このことから、クロッカスには「私を信じて」「あなたを待っています」といった、純粋な愛と待望の花言葉が与えられました。

日本の野菊が「野山の風土」に寄り添い、慎ましやかな和の情緒を伝えるのに対し、西欧の秋咲きクロッカスは「神話の情熱」を宿し、乾いた大地から突如として鮮やかな色彩を現します。どちらも「他の花が眠りにつく晩秋にこそ、自らの命を輝かせる」という共通の美学を持っています。

寒風が吹き抜ける十一月のひととき、足元に咲く小さな花々に目を向けてみてください。そこには、数千年の時を超えて語り継がれてきた、命の物語が静かに息づいているはずです

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